オヴィディウス(前43-後17)

ヴェルギリウス・ホラティウスとともに、ラテン文学黄金時代を代表する三大詩人の一人。しかし、温厚で「神のごとき詩人」と嘔われたヴェルギリウスや、哲学者の風貌を持つホラティウスと異なり、彼はどうすれば異性の心を捉え、恋愛に勝利できるか教えるとうそぶく『恋のてくだ』のような詩で、人気詩人の地位を獲得する。「愛されるには、まず愛想よくあれ」をモッ卜ーとし、「天が星をもつ数だけそれだけ、多くの少女を汝のローマはもっている」とうたい、「じつに今は黄金の時代である。最高の名誉は黄金で得られ、恋愛も黄金でむすばれる」とローマ社交界の花形としてわが世の春を謳歌するも、風紀の乱れを憂えるアウグストゥス帝からその元凶としてにらまれ、突如黒海沿岸の辺境の地へ流刑される。もっとも流刑の原因については、皇帝一族のとんでもない不祥事をたまたま目撃してしまったためではないか、とも言われる。風紀の乱れと言えば、何といっても皇帝の娘ユリアの浮気癖に勝るものはないから、これは大いに有り得る話である。流刑地で身の不運を嘆く詩をつくり、ひたすら皇帝のゆるしを願ったが聞き入れられず、10年間の悲惨な流刑生活の後没した。代表作は、ギリシア・ローマ神話から変身物語を集成した『転身譜<メタモルフォセス・変身物語>』で、神話伝説の宝庫としてシェークスピア以下後世の小説家におおいに利用されている。今は亡き偉大なマンガ家手塚治虫にも同名の作品がある。