トマス=アクィナス(1225-74)

ドミニコ派の学僧にしてパリ大学教授。「神学大全」を著してスコラ哲学を大成したことで余りにも有名。もっともその前提となったのは、当時イスラム世界のアラビア語文献から翻訳されたアリストテレス理論であり、スコラ哲学自体がイスラムの学問の輸入翻訳から始まっていることは注目されてよい。生存中から「天使博士」と賞賛され、死後聖人とされた。ちなみにショーン=コネリー主演で映画化されたウンベル卜=エーコのベストセラー小説『薔薇の名前』で、重要な登場人物である修道院長は、トマスの死にあたって棺を担ぐ係となり、大男の彼を入れた巨大な棺を落とすことなく無事、僧院の狭い通路や階段を運んだ功績によってそのドミニコ派修道院長の座を手に入れた…という設定になっている。なお、ドミニコ派がスコラ哲学の研究に力を入れて多くの学僧を輩出したのは、初期のドミニコ派が南フランスにおけるワルド派やアルビジョワ派の異端運動に対抗する役割を担い、異端審問を積極的に行う修道会であったため、異端との論争に備える必要があったからである。