出題年:99年
出題校:筑波大学
問題文
下記のテキストA・Bはシェイエス著『第三階級とは何か』と,フィヒテ著『ドイツ国民に告ぐ』からの抜粋であるが,フランスとドイツにおけるナショナリズムのちがいをよく示している。
A 1.第三階級とは何か……総て
2.今日までその政治的地位は如何なるものであったか……零
3.それは何を求めたか…そこで相当なものになること
 ここでは次のことを知って貰えばよい。つまり,公務には特権階級が有用であると主張しても,それは妄想に過ぎないということ,特権階級が居なくとも公務の中の骨の折れる仕事はすべて第三階級によってやってのけられるということ,何も特権階級でなくても高い地位に就けば遙かにうまくやってのけるということ……。
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貴族階級は,その私法上及び公務上の特権によって,我々の中にある異邦人にほかならない。
 国民とは何か,共通の法律の下に生活し,同じ立法機関によって代表される生活共同体である。
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故に第三階級は国民に属するすべてのものを包含するものであり,第三階級でないものはすべて国民だとは見倣されない。第三階級とは何か−すべてである。
(大岩誠訳,岩波文庫)
B 従来多数の人の心の中にはただ肉・物質・自然のみが生きていた。新しき教育は,多数の者,いな能うべくんはすべての者の中に,精神のみが生きて彼らを動かすようにしようとするのである。余がさきによく整いたる国家の唯一の基礎と呼べる堅実なる精神を,一般の人心の中に生み出そうとするのである。
 かくの如き教育によれば,吾人が劈頭に前提したる目的,吾人の講演の出発点たる目的が,疑いもなく達成せられる。かくして生み出されるべき精神は,最高なる祖国愛,即ち,自己の現世の生命を永遠なるものとし,祖国の生命をこの永遠性を荷なうものとする把握を直接自己の中に導き入れる。そしてこの精神がドイツ人の間にうち建てられる場合は,ドイツ人の祖国に対する愛を自己の必然なる構成部分として直接に自己の中に導き入れるのである。そしてこの愛から,勇敢なる護国者,及び穏和なる遵法の公民が自然の結果として生ずるのである。……
(大津康訳,岩波文庫)

 まず,これらの著作が書かれた歴史的背景を説明したのちに,テキストA・Bに表明されている,フランスとドイツのナショナリズムの特徴について,以下の語句を用いて説明しなさい。

階級闘争 革命 国家主義 三部会
ティルジット条約 ナポレオン 民主主義 民族の精神

解答例

シェイエスの著は,特権階級への課税問題から三部会の召集が決定された時に出され,特権階級に対する第三階級の階級闘争としての革命を主張するものであった。ここでは共通の法を共有するものを国民とし,国民は民族に限定されていない。また,同じ立法機関によって代表される共同生活体を国民と定義することで,主権在民の民主主義が主張されている。民族主義に拠らず民主主義を前提とするのがフランスのナショナリズムの特徴である。一方フィヒテの著作は,プロイセンがナポレオン軍に敗北してベルリンを占領され,ティルジット条約で領土が半減する危機の状況で著され,ドイツの民族国家の建設を訴えるものであった。ここでは国家建設の基礎がドイツ人の民族の精神と祖国愛に求められ,国家と個人の精神的結合が強調されている。ドイツのナショナリズムは民族主義に依拠し,個人よりも国家を重視する国家主義の傾向を帯びることが特徴である。(393字)


参考: