05年1月19日 車中読書
 ポール・クルーグマンの『』読了。ブッシュ政権の財政赤字は、これを口実に社会保障制度を破壊するために意図的に作り出されたものであると喝破。

 そんな陰謀論を、将来のノーベル賞確実と謳われるクルーグマンともあろう人が、と思ってしまった人は甘い。陰謀も何も、これは共和党保守派のイデオロ−グが自ら公言していることなのだ。そして、前作『嘘つき大統領のでたらめ経済』でクルーグマンが展開したブッシュ政権=革命勢力説の要諦も、実はここにある。

 現在の社会制度を覆そうとする革命勢力(クルーグマンはナチスを例にあげている)に直面した時、常識的な人々はうまくそれに対応できない。彼らが公にしているスローガンを、まさか本当に信奉し、実現しようとするハズがないと思ってしまう。ナチスは、ユダヤ人の排除と、東欧にドイツ人の“生存圏”を建設することを、公言していた。しかし、彼らが政権をとった時、イギリス首相ネヴィル・チェンバレンを初めとする現実主義者は、まさかナチスが本気でそのような政策を推進する筈がないと思い込み、宥和政策に邁進した。もし、1935年の時点で、ネヴィル・チェンバレンにナチスは本気でそのスローガンを実現するつもりですと、進言するものがいたならば、チェンバレンはそれを“陰謀論”と笑い飛ばしただろう。

同様の危険性を、クルーグマンはブッシュ政権について指摘する。共和党右派のイデオローグは、社会保障制度を資本主義にとっての障害物とみなし、その排除を提唱してきた。究極の市場経済の実現こそが経済成長をもたらすのであり、究極の市場経済のためには、社会保障制度も全て民間にゆだねるべしというのが、その理屈だ。そしてブッシュ政権はそのイデオロギーを信奉する革命勢力である。彼らには“目的は手段を正当化する”という革命勢力に普遍的に見られる傾向があてはまる。目的のためには、革命勢力は欺瞞や脅しなど、あらゆる卑怯な手段を使うことも、短期的に社会を混乱させることも厭わない。

財政赤字を意図的に作り出し、それを口実に社会保障制度の廃止を迫るというのは、だから充分にありえる戦略なのだ。

そして、このような認識と危機感は、クルーグマンだけでなく、いまや広く共有されようとしている。で紹介されているワシントンポスト誌の1月12日の「危機を捏造する大統領」というコラムでも、ブッシュ政権が社会保障制度の危機を捏造して社会保障制度の廃止を迫ろうとしていることを、検証している。加えてイラク戦争推進のためにブッシュ政権が行ってきたあまたの捏造や詭弁をふりかえってみて、それでもまだ、陰謀論と笑い飛ばすことができるだろうか?

 いや、それでもそれはアメリカ国内に関することで、我々には関係ないじゃないかとおっしゃる向きもあるやもしれない。

 2点関係ある。

 まず1点目は、現在われわれがいただく首相が、異常なほどブッシュ政権と親密な関係にあり、そして信奉するイデオロギーもまた、粗暴な市場万能論ではないのかと疑われること。コイズミってひょっとして社会保障制度の破壊を狙ってないか?ブッシュが成功したら、俺様も、って思ってないか?

 ブッシュ政権が破壊しようとしているアメリカの社会保障制度は、今でも日本に比べて十二分に不十分であり、その当然の帰結としてアメリカは先進国中平均寿命が最低レヴェルであり(クルーグマンも指摘)、さらに乳幼児死亡率はキューバよりも、そして中国よりも高い(の最新記事でも紹介)。対して日本の平均寿命は、そして乳幼児死亡率は、それはいまさら言うまでもないでしょう。でも、それが、今後も続くかどうかということに関しては、急速に、あやしくなりつつある。

 次に2点目。より短期的な身近に迫った危機である。革命勢力は目的遂行のためには社会を破壊したり混乱させたりすることを厭わない。それはブッシュ政権も、オサマ・ビン・ラディンに代表されるイスラム原理主義者も、ついでに言えばレーニンスターリンヒトラー毛沢東もみんな一緒。だからブッシュ政権は、社会保障制度破壊のために、財政赤字の悪化を放置し、それどころか、富裕層減税によってさらにそれを悪化させようとする政策を平気で推進している。

 さて、目的達成の手段としての財政赤字の蓄積がこれ以上進むとどうなるか。アメリカの赤字は、結局のところドルの下落によってしか解消できない。

 つまり、この先、1971年のニクソンショック、1985年のプラザ合意に続く、第三のドルの大幅下落が待ち受けているということだ。それは国際経済を混乱させるだろう。特にアメリカに忠実にアメリカの国債を大量に買い込んでしまった日本経済を直撃するだろう。

 そして革命勢力たるブッシュ政権にとって、社会保障制度廃止という目的のためには、日本経済がどうなろうと知ったことじゃないことだけは、確かなことなのだ。たとえ忠実なポチが、どれほどけんめいに尻尾を振ったとしても。

05年1月17日 名古屋で会議
 朝5時半に起きて6時半に家を出て、帰ってきたのは夜10時近く。会議自体もテキスト2本まとめては、ヘヴィーであった。ノロのおかげでかなり体力が落ちてたので、いっそうヘヴィーに感じたのかもしれない。
 
 復路、名古屋駅のキオスクで『1・2』を発見し購入。(全国全駅上下車達成寸前!)と、鉄道にまったく興味のない女性マンが家の珍道中を描くほぼノンフィクショントラベルコミック。読みながら、鉄(鉄道マニア)の教え子っていたよなあ、と懐かしく思い出す。
 鉄道好きな人はもちろん、そうでない人にもおすすめ。
 
 野球が好きな人はもちろん、そうでない人もぜひ

 というキャッチコピーが帯についていたのが、年末年始にはまっていた『』これもおすすめ。

05年1月15日 センター世界史
 大雪の可能性があったので、結局新年会は中止。残念。

 に今年度のセンター世界史の問題がUPされたので、チェック。文化史と戦後史が増加しているのは、現役の受験生にはきつかったかな。もっとも戦後史に関しては、最後の講義でわりと時間をとってやったし、やや難の問題として注がついていたリオデジャネイロの地球環境サミットについては、力点を置いて説明したはずだし、私の講義をとっていた諸君、出来ていて欲しいぞ。

 ただ、センター試験はこれで終わったことなので、頭を切り替えて、今後に臨んで欲しい。その際、センター試験第一問でもアメリカの対イラク戦争の視点からの問題があったように、今年度入試全般の傾向としてやはり、アメリカ史の増加が予想される。

 対策をたてよう。

05年1月14日 人事を尽くす
 継続は力。千里の道も一歩。火事場の馬鹿力。矛盾する成句を乱発しておりますが、矛盾してない。私には珍しく、講習が終わるやただちに原稿にとりかかり、ノロと花粉症に蝕まれている間もちびちびとすすめていた蓄積のもと、ノロから快復した本日追い込みをかけた結果、テキストの原稿〆切2本をクリアし、なおかつ昨年末からため込んでいた立川校の高校世界史論述講座の論述の添削も全て仕上げて、しかもそれを立川校の校舎まで届けることが出来ました。

 人間、やればできる。

 これで明日は無事、近藤さんちで富由彦さんの作品集の出版打ち上げ会兼新年会だ〜と喜んでいたら、大雪の予報。

 人間の力だけでは、どうしようもないこともある。

 って言うより、センター試験は雪というジンクスは今年もか。


05年1月13日 ノロ
 前日、一昨日からの下痢・腹痛・吐き気に加えて昼過ぎから発熱。ついに観念して医院に言ってみたらば速攻で、「あ、今話題のあれですね」と言われてしまう。今話題のあれにはかなりうとい。ワイドショーはもちろん、TVのニュースもほとんど見ない。怖がりの長男が「ニュースって人が死ぬ話ばかりおおげさにするから嫌だ」と強硬に反対し、あきれながらも、TVニュースがワイドショーまがいのニュースショーに成り果てているのは確かだ、それも一理あると思ってしまったからなのだけど、当方の困惑を察して医師が「ほら、老人ホームで老人の方が次々に亡くなられている」と続けたので、ようやく合点がいった。確かにそんな記事を新聞紙面でちらり見たような気がする。
「ああ、あの」
「そう、ノロウイルスですよ。胃腸にくるやつ」
 いやそんな。ウイルスの名前までは覚えてませんでしたけど。
「大丈夫、今更騒いでますけど、昔から知られていたウイルスで、大したことはありません。発熱もほぼ1日あれば治まります。死ぬのは体力の極端に低下したお年寄りが、適切な処置を受けられなかった場合だけで、そうした場合って普通の風邪でだって死んじゃいますから」
 にこやかな顔で死ぬだなんて言葉を連発する医師に、不安を煽られ、鎮められ、術中に落ちていいように操られていくわたくしである。
「12月の半ばから、うちに来る患者さんにも多いんですよ。一応確認しときましょう。じゃ、横になって」
簡易ベットの上に仰向けに寝る。
「ここ押すと、気持ち悪いでしょ」
ぐいっと手のひらで腹部を押されて、ううっ。すごく気持ち悪いです。
「ここもね」
ぐいっ。ほんと気持ち悪いです。
「間違いないですね。膨満感もあるし。じゃ、起きて元の椅子に座って」
座りました。
「一応喉も見ときましょう。あれ、変だなあ。すごく腫れてるなあ。ノロウイルスって胃腸だけで、喉には来ないはずなんだけどなあ」
せんせい、あれだけやっといて、ノロじゃないんですかと、なさけなくも口を開けたまま思うわたくし。ノロでいいです。ノロにしといてください。
「あ、わかった。あなた花粉症だったでしょう」
はい。かなりひどいです。
「それだ。ノロと花粉症の合併症だ。これはちょっとつらいかもしれないなあ」

そういうわけで、ノロの症状に加えて喉の腫れにともなう痛みが胸部にも広がって、なぜか頭痛も誘発し、ちょっとじゃなく、かなりつらかったです。この一両日。

05年1月11日 テキスト会議第一弾
 10時30分より、第一弾のテキスト会議。なんとかなんとか原稿間に合う。会議そのものは順調に進行。ところが、帰りの電車、新宿から京王線に乗り換えたあたりで、猛烈な悪寒と腹痛に襲われる。身体が妙に火照り、冷や汗がだらだらと流れて気が遠くなって、まじ倒れるかと思ったっす。
 帰宅後も、下痢と腹痛は続き、晩飯抜き。昼食べたのは、豚キムチうどんだけど、当たるような食材ともおもえないし。いや、でもあれかなあ。寒いときに、急に辛いモノを食べるのはよくないという。
 そういえば昔、吉祥寺の地下のタイ料理屋でグリーンカレーを喰った後、店から出てみれば真冬の吹雪で、速攻で気分悪くなって動けなくなったことがあったような、なかったような。

05年1月7日 とほほ
 冬期講習が空けて、何をしているかというと、教材の仕事をしておるわけです。これが。センター試験が終わる17日まで講義はないのだけど、それまでの間に来期のテキストその他の〆切がまとまってやってくる。一番近い〆切は12日で、と思っていたら、河合塾よりTEL。諸般の事情により、予定していた会議が11日の午前中に前倒しになりますという連絡。当然、〆切も10日までと前倒しに。をいをい。

05年1月6日 新年
 冬期講習が本日終了。そして中村富由彦さんの作品集『麦酒瓶を砕く』が印刷所から届く。近藤さんから既に出来上がっていた表紙カバーを20部送ってもらい、本体に被せて富由彦さんのご両親のもとに発送。やっと一区切りつきました。

 皆様、あけましておめでとう。

 特に受験生諸君、本年が君たちにとってよい年でありますように。