出題年:2007年
出題校:東京大学
問題文

 古来,世界の大多数の地域で,農業は人間の生命維持のために基礎食糧を提供してきた。それゆえ,農業生産の変動は,人口の増減と密接に連動した。耕地の拡大,農法の改良,新作物の伝播などは,人口成長の前提をなすと同時に,やがて商品作物栽培や工業化を促し,分業発展と経済成長の原動力にもなった。しかしその反面,凶作による飢饉は,世界各地でたびたび危機をもたらした。
以上の論点をふまえて,ほぼ11世紀から19世紀までに生じた農業生産の変化とその意義を述べなさい。解答は解答欄(イ)に17行以内で記入し,下記の8つの語句を必ず1回は用いたうえで,その語句の部分に下線を付しなさい。

湖広熟すれば天下足る  アイルランド  トウモロコシ  農業革命
穀物法廃止  三圃制  アンデス  占城稲


解答例

11世紀頃の西欧では三圃制の普及と開墾が進展し,商業ルネサンスや東方植民などの拡大運動がおこった。中国では占城稲の導入や囲田の干拓が進んだ長江下流域を中心に商業都市が成長した。しかし14世紀には凶作による飢饉が世界を覆い,西欧封建社会の解体やモンゴル帝国の崩壊によるユーラシア世界再編につながった。生産が回復した16世紀には東欧が農場領主制のもとで穀物生産地として,新大陸が砂糖などプランテーション生産地として西欧に従属する分業体制が成立した。中国では長江中流域が穀物生産地として開発されて“湖広熟すれば天下足る”と称され,下流域の農村は家内工業の原料の桑や綿花の栽培に転換した。17世紀の停滞を経て18世紀のヨーロッパは四輪作法による農業革命アンデス原産のジャガイモ栽培の普及によって人口が増大し,工業化の労働力を提供した。19世紀半ばのアイルランドのジャガイモ飢饉は,合衆国工業に移民労働力を提供する一方,イギリスが穀物法廃止によって国際分業を唱える自由貿易主義を確立する契機となった。中国では18世紀にトウモロコシなどの栽培で人口が増大したが,山間地や辺境の開墾が自然破壊による飢饉をもたらし,19世紀の混乱の要因をなした。