トルストイ(1828-1910)

現実主義と人道主義を追及し、高級官僚の妻アンナの不倫と破滅を描いた『アンナ=カレリーナ』、ナポレオンのロシア遠征に題材をとり、自己のクリミア戦争の体験を投影した『戦争と平和』、クリミア戦争を描いた『セヴァストポリ物語』などを著した、ロシア写実主義の世界的巨匠。しかし、彼は50歳過ぎから自分の作品を否定しはじめ、妻と深刻な争いを生じ、82歳にして家出を決行して4日目に汽車の中で熱を出して倒れ、小さな駅の駅長室で駆けつけた家族にみとられながら死んだ。日本の自然主義作家正宗白鳥の有名な言葉。「人生救済の本家のように世界の識者に信頼されていたトルストイが、山の神を恐れ、世を恐れ、おどおどと家を抜け出て、孤独独遇の旅に出て、ついに野垂れ死にした経路を日記で熟読すると、悲壮でもあり滑稽でもあり、人生の真相を鏡に掛けて見るが如くである。ああ、我が敬愛するトルストイ翁」(山田風太郎『人間臨終図鑑』参照)