出題年:1999年
出題校:一橋大学
問題文
次の文章は,ドイツの法学者オットー・フォン・ギールケが,1889年4月5日に行った講演の一部である。これを読んで,下の問に答えなさい。
 我々に必要な私法は,個人の不可侵の領域を十分に尊重するけれどもそこに共同体の思想が息づいているような私法です。端的に言えば,公法には自然法的自由の気風が息吹かねばならないし,私法には社会主義の油を一滴しみ通らせねばならないのです。
問 この講演にみられるようなドイツ民法典への社会的要請について,フランス民法典と比較しつつ,1870年から1900年までの政治的・社会経済的状況を説明しなさい。


解答例

フランス民法典は個人の自然権の確立を目的とするもので,特に個人の財産権を確定した。それは個人の自由競争を前提とする資本主義社会に適合するものでもあった。ドイツの民法典は共同体としての国家を個人の上位に置く一方,社会保険制度など国家による個人の生活保障も規定して,資本主義を批判する社会主義の主張の一部を取り込むものであった。これは政治的にはドイツ帝国の統一が国家による上からの統一によって行われ,政治制度が外見上の立憲制にとどまったこと。社会経済的には統一後のドイツが急速な工業化を経験し,労働者が急増して社会主義運動が成長したことが背景にある。ドイツ帝国の初代宰相ビスマルクは社会主義者鎮圧法によって社会主義運動を弾圧する一方,社会保険制度整備など社会政策を行って労働者を国家に取り込もうとした。さらにヴィルヘルム2世は社会主義者鎮圧法を廃止して社会民主党を公認するにいたるのである。(393字)