勉強をしている時,なんで「勉強」なんてしなければいけないんだろう。イヤだなあ。と思ったことがありませんか。僕はしょっちゅうでした。でも,社会人になって見れば,「勉強」していた様々な教科は,それぞれ勉強する価値と意味があるんだ,ということが,分かってきます。「おとな」の人が,よく,「もっと勉強しとけばよかった」と言うのは,ホント,実感だったりするわけです。 でも,「おとな」になってから,「もっと勉強しとけばよかった」と思うよりは,今,勉強しといた方がいい。
そこで,僕は社会科の,なかでも世界史の講師なので,世界史を「勉強」することの,価値と意味について,ここで語ってみたいと思います。
さて,社会人になるということは,どういうことか。一番簡単に言うと,自分の力で働いて,お金を稼いで生きていく,ということです。その時,どの職業を選ぶかは,現在の社会では職業選択の自由,で保障され,君たちの意志と努力にまかされています。現在の日本社会の基本原則が,自由主義と民主主義であるからです。
しかし,日本でも江戸時代には士農工商の別があり,どんなに適性と能力があって努力しても,なりたい仕事につけたわけではなかったように,自由主義と民主主義は,人類誕生以来の原則では,実はありません。それは,貴族と平民の身分差別 が存在したヨーロッパにおいて,絶対王政と身分制社会に対抗するものとして生まれ,18世紀末のアメリカ独立革命や,フランス革命をきっかけに広がり,多くの人々の戦いと犠牲の上に,19世紀も後半になってようやく確立した原則なのです。もちろん,この原則が実現していない国も,まだまだたくさんあります。
また,今の日本では,どのような仕事を選択しても,ある程度の収入と生活は,維持できます。しかし,世界のどこでもそうだというわけでは,ありません。アフリカでのサッカーコーチ歴が長い,日本代表監督のトルシエは,あるインタビューで,「今の日本に生まれてきた,ただそれだけのことが,世界的には幸運なことなんだということを,選手に意識させたい」と言ってました。この世界には,満足に仕事もない,食べていくことすら困難な社会が,いたるところにあるのです。
なぜなのか。
19世紀の中頃までに欧米諸国で,工場での機械による製品製造の仕組み,すなわち工場制機械工業が確立していきました。いわゆる第一次産業革命です。この結果 ,製品を大量に,安く製造できるようになった欧米諸国は,世界のあらゆる地域に,自分たちが製造した製品を売り込んでいこうとしました。欧米諸国との貿易を拒否する国には,軍事力も用いて,開国を強要しました。
その結果,どうなったか。
世界各地でそれぞれ独自に発展していた産業は,欧米の製品との競争に負けて衰退し,世界中で多くの人々が仕事を失って貧しくなりました。そしてそれらの地域は,欧米諸国に原材料や,欧米諸国の人々が生活を楽しむための嗜好品を提供する地域にかわっていきます。 19世紀末からは第二次産業革命と言われる,重工業分野での技術革新が行われ,欧米諸国の産業はさらに発展しました。 そのころになると欧米諸国は,競って他の地域を植民地として支配し,今まで以上に自国製品の市場,原料の供給地につくりかえていきます。帝国主義の時代です。その競争には,やがてヨーロッパの制度や文化を積極的に導入した日本も参加し,アジア・アフリカのほとんどの地域が,植民地や勢力圏として分割されていきました。そしてその競争の行き着く果 てに,二度の世界大戦の悲劇があったのです。
第二次世界大戦後,植民地は独立を達成していきました。しかし,日本を含む欧米の先進国の製品を購入し,原料や商品作物を輸出するという経済構造は,多くの場合,そのまま残りました。その結果 ,我々の世界は,日本を含む一握りの豊かな国と,残りの多くの貧しい国々,という状態が続いているのです。
世界史を「勉強」すると,現在我々が生きている世界の姿が見えてきます。
さて,現在,第三次産業革命が進行中です。君たちも「IT革命」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。IT革命とは,インターネットなどに代表される情報通信技術の革新のことですが,このIT革命が,第三次産業革命の中核となります。過去の2度の産業革命は,世界を大きく変えました。今度の第三次産業革命も,大きく世界を変えるでしょう。今の日本の豊かさが維持される保障もどこにもありません。今,社会人である僕たちも,これから社会人になる君たちも,そのような変化の時代を生きていかなければなりません。 一人一人が,様々な選択と決断を迫られることが多くなります。自由主義の社会は,自分の意志でものごとを決定しなければならない社会でもあるのです。
よりよい選択と決断のためには,前提として,正しい知識をもたなければなりません。その正しい知識と,この社会で生きていく力は,「今,勉強すること」で身に付いていきます。 僕は,正直,「今,勉強することができる」君たちがうらやましい。いざ,社会に出てしまうと,なかなか勉強することができないから。 というわけで,諸君,積極的に,自分のために,「勉強」していきましょう。