第14回 第一回高円寺エンターティメント研究所大賞・所長賞発表

◎大賞
 2004年に開催、発表、出版などされたエンターティメントの中から最も強烈な印象をのこした興行、試合、作品におくる。当研究所が誠意をもって、独断で選ぶ Entertainment of the year である。
 ノミネートは下記のとおり。

のだめカンタービレ
鋼の錬金術師(マンガ版)
○女子サッカー・アテネオリンピック・アジア予選 日本対北朝鮮戦
オールド・ボーイ(映画版)

  評点対象になっていなかった『オールド・ボーイ』がノミネートされているが、評点対象にされた作品以外にも、当研究所はチェックを怠っていないことを証明するものである。もっとも、『オールド・ボーイ』はカンヌ受賞作品であるから、観ていて当然かもしれないが。

★第一回高円寺エンターティメント研究所大賞
    「女子サッカー・アテネオリンピック・アジア予選 日本対北朝鮮戦

 スポーツの国際試合における三大要素、個人のスキル・チーム戦術・団体(協会)の政治力の重要性を良くも悪くも再認識させてくれた試合。日本サッカー協会には、2002年の失敗がよい経験となっているのだろう。

 Jリーグの成功に便乗しようと、バレーボール協会ラグビー協会が懸命になっているが、過去の栄光を使い込み、一部のマスコミに利用されているだけの前者や、かけ声だけは大きいが行動に具体性や計画性のかけらもない後者には、Jリーグ程度の成功も覚束ないだろう。いまのままでは、オリンピックでのメダル獲得や、ワールドカップ開催などあり得まい。

なでしこジャパン」が一時のブームで終わらないことを祈る。

◎所長賞  
 2004年にエンターティメントに多大な貢献をしたと思われる個人、チーム、団体におくる。
所長個人がそれこそ独断で選ぶ People of the year である。
ノミネートは下記のとおり。

マイケル・ムーア……映画『『華氏 911』』監督
古田敦也……ヤクルト・スワローズ選手・日本プロ野球選手会会長
浦沢直樹……『20世紀少年』『PLUTO』作者

★第一回高円寺エンターティメント研究所所長賞
    古田敦也(ヤクルト・スワローズ)

 仙台に降り立った新球団のオーナーは、東北6県をフランチャイズにと――誰に頼まれたわけでもないのに――いいながら、「RAKUTEN」と大描きされているヴィジター・ユニフォームを使用させることに決めた。大いに落胆したが、予想の範囲内でもあった。
 かの球団は、スポーツを親会社のビジネスに利用してきたこれまでの球団とは違い、スポーツでビジネスをしようとしている分だけ期待できるかもしれないが、それでも、せいぜい新しいビジネス・モデルを提出する程度の成功しか収められないだろう。オーナーはヴィッセル神戸での経験をポジティヴに語っているが、ようするに、あの程度、ということなのだ。

 20億、30億の赤字なら平気だと豪語するホークスの新しいオーナーは、真のワールド・シリーズの実現をめざすといいながら、日本人選手のアメリカ・メジャーへの流出を加速させるということを理由に完全ウェーバー制のドラフトに反対している。自称「球界の盟主」球団の元オーナーと同じ姿勢である。

 これは、ウェーバー制ドラフトの導入に伴い変更されると予測されるフリー・エイジェント資格の早期取得−→若い年齢でのメジャー挑戦の助長・人件費の高騰化による経営の圧迫という図式をおそれてのことと思われるが、多少メジャーへ流れたくらいで困り果てるほど日本の野球界に人材は不足していないし、選手の人件費に関しては、ラグジュアリー・タックスやサラリー・キャップなど、いくらでも手はあるだろう。そもそも、公表できないような経費を使うことになる「自由獲得枠」などという今の制度より、こちらのほうがよほど健全ではないか。

 競技人口に対してあまりにもプロ球団数が少ない。にもかかわらず首都圏に球団が多い。そのうえ退屈なドーム球場が多い。なぜか読売ジャイアンツだけ「巨人」という特別な呼称を使っている。などなど、細かいことを言い始めるときりがないくらい、日本のプロ野球には問題が山積みである。昨秋の再編問題以来、古田をはじめとする選手会の働きもあり、遅まきながらやっと改善のために動きだすことになった。動きだすことにはなったが、結果がどうなるかはわからない。結局何も変わらず、日本のプロ野球は緩慢な死を迎えてしまうかもしれない。親会社やオーナーが、これまでのようにタニマチ的に関わっているようでは、その可能性が高い。ファンの関心もいつまで続くかもわからない。

あのスト決定の記者会見で観た古田のやつれた顔を忘れないこと。そしてあのストを多くのファンが支援したことを忘れないこと。それが、日本のプロ野球改革の前提だ。選手やファンに支持されないスポーツは淘汰されていくのだから。
                               〈了〉