03年2月28日 一橋大学
午後から一橋大学の解答速報作成会議。第一問が特に問題ありの難問であるということで認識は一致。昨年度が叙任権問題に対する割と一般的な問題だったので、その反動で難問化したのではということが話題となる。帰路、分梅書店で『寄生獣』完全版の3・4巻を購入。

03年2月27日 一橋大学問題
明日の一橋大学解答速報作成会議のため、一橋大学の問題が送られてきた。難問。第一問の15世紀イタリアに関する問題は、教科書の範囲を逸脱しまくっていて、受験生は実際にはほとんど書けないはず。第2問と第3問に、「部分的に」平易な問題があるので、第一問が書けなくても、第2問、第3問でいかに頑張れるかが、ポイントになる。一橋の論述問題は、完答は不可ぐらいの気持ちで臨まないと。

03年2月26日 東京大学第一問
の論述問題、ここ数年はイベリア半島やエジプトなど地域を設定して、長いスパンの縦の歴史をまとめさせる問題と、同時代的な横の広がりをまとめさせる問題が隔年現象になっていて、昨年は、「華僑の移動」という「横」の問題だったので、順番からすると今年は「縦」かな、と思っていたら、見事に外されました。運輸・通信手段の発展が、植民地化の背景となる一方、民族意識を刺激した、それについてまとめよという「横」の問題。
さて、この問題、リード文に「交通手段の発展によって加速された人の移動は、各地の民族意識を刺激する要因ともなった」とヒントがあって、指定語句に「汽船」がある。これは明らかに東京書籍の教科書のp244「19世紀の汽船の時代を迎えてメッカへの巡礼者は急増し、イスラム世界の人的交流は大きくすすんでいた。この巡礼者をつうじて、ワッハーブ派の思想は全イスラム世界に大きな影響を与えた」に対応している。ここの部分は、論述で出る、ということは授業では強調してたハズなんだけど、受験生諸君は書けただろうか。ちなみに駿台と代ゼミの解答速報は書けてなかったり。

03年2月25日 分倍河原の書店
分倍河原駅前の小さな商店街にある分梅書店。いわゆる街の本屋さんだけど、2階が人文・社会科学系とコンピュータ関連の専門書コーナーになっていて、これが結構充実していてなかなか侮れない。『歴史学における方法的展開−現代歴史学の成果と課題1 1980−2000』(歴史学研究会編、青木書店、2002)をゲット。この20年間の歴史学の研究動向をまとめたものなので、仕事的な関心から言っても、入試における世界史の出題傾向を探るには格好の書だったりする。帯の文句が「これほど歴史学が変化を遂げた時代があっただろうか」。そうなんだよな。当然ながら、それにあわせて入試問題もどんどん変化していくから、けっこう大変だったりするんだけど。

03年2月24日 恒例の西荻窪探訪
野原・竹内両氏と恒例となった西荻窪探訪・・・のハズだったけど、みぞれ模様の悪天候。そこで、山内の発案で西荻窪の温浴施設へ。風呂につかり、休憩室でビールを飲み、その間にも談論活発。個人的には昨日、温泉に入れなかった恨みをここで晴らしたと。

03年2月23日 梅と甘酒
郊外ロードサイド店情報のムック本で、八王子の温泉を発見。道路事情を考えると自動車で20分ほどの近場だとわかり、インターネットで検索して割引チケットもゲットして、準備万端整え出発。ところが、いざその温泉へと行ってみたらば、七福神の大福像が入り口にどでんと鎮座する外観の、色物私設博物館的なそのあまりのセンスにかみさんも子供たちも、「ここはやめよう」と意見が一致。急遽計画を変更し、午前中は百草園で梅見と甘酒。甘酒が気に入った長男の発案で、午後はやはり梅祭りをやっている府中市の郷土の森へ。一日2回の梅見と相成りました。

03年2月22日 早稲田の法と政経
午後から早稲田の法学部と政経学部の解答速報検討会議。早稲田の法は3年連続で難問奇問を排したセンター的な良問と、本格的な論述問題の組み合わせ。表面的な知識よりも、理解力と思考力を試そうという姿勢が明確に。それに対して政経は、以前よりも改善のあとが見られるものの、相変わらず重箱の隅をつつくような雑問が中心。世界史の入試問題を見る限りでは、早稲田の看板学部が政経から法へと転換するのが必然か。

03年2月21日 府中市中央図書館
府中市の中央図書館は市役所と大国魂神社に隣接してある。建物と施設は少々古いが巨樹に囲まれた環境は抜群。拙宅からだと15分ほどかかるけど、一応徒歩圏で、整備された歩道が続いているので格好の散歩コースにもなる。そういうわけで、今日も行ってきました府中市中央図書館。ここ数ヶ月、転居にまつわる細事と例年より早いテキスト執筆日程に追われて読書ペースが落ちているので、そろそろ心機一転をはからねばと。

03年2月20日 『海の帝国』
必要があって、『海の帝国』(白石隆、中公新書、2002)を読み返す。ネットワーク論や国家論などの歴史学の成果を踏まえつつ、現在の東南アジアにおける政治的問題を解き明かし、さらに第二次世界大戦後の日本と東南アジアの関係がアメリカの主導の下で構築された経緯を論じ、そのシステムの維持と発展にこそ、日本の今後の進路があると説いて読売・吉野作造賞を受賞した好著。問題があるとすると、一貫してヴェトナムを論じることを回避していることか。ヴェトナムを除く他の地域については、朝貢貿易システムが崩壊した後、近代においてイギリスが主導する植民地経済システムに組み込まれ、第二次世界大戦後はアメリカをNo.1、日本をNo.2とする地域秩序の下に再編されたという著者の論に大筋において同意するとして、では、ヴェトナムはどうなのか、が、難しい問題。ヴェトナムは、東南アジアの他の地域がその文化基盤にインドの影響を強く受けているのに対し、中国文化の影響を強く受けている点でまず異なり、さらに中国の冊封体制下からフランスの植民地支配下に移行し、社会主義政権が成立していくその歴史的経緯が、著者が論じた他の東南アジア地域と決定的に異なっている。だからこそ、あえてヴェトナムを考察の対象から外したのだろうけど、今後のアジア秩序と日本のかかわりについても提言しようとする著者の立場からすると、やはりその論考にはヴェトナムを組み込む必要があったのではないかと。
再読した今回、特に印象に残ったのは、スハルト体制の崩壊を論じた部分。スハルトの子供たちのファミリービジネスの跳梁が上から下までの政治指導者によるたかり構造を生み、正規の国軍の指揮系統から外れたスハルトの娘婿を司令官とする陸軍特殊部隊が独立運動弾圧や治安維持活動で多くの虐殺事件を引き起こしたことが、国家への人々の信頼を失墜させ、スハルト体制の崩壊を引き起こしたのみならず、インドネシア国家の再建を困難にしていると著者は分析する。以下、引用。

国家は壮大なたかりの機構として国民を食い物にし、またスハルトとかれを範とするミニ・スハルトによって食い物にされた。国軍は国民の軍隊というより国民を敵とする軍隊となり、東ティモール、アチェ、イリアン・ジャヤで、実に多くの人を殺した。ではこういう国家がそれでもなお国民の国家として正当性をもちうるだろうか。そんなことはないだろう。それには、たとえば、わたしがアチェ人でわたしの子供がある日、なんの理由もなしに軍に殺された、あるいはわたしがジャワ人で、わたしの土地がある日、わけもわからないまま県知事の子供の会社に取り上げられた、と想像すればよい。そのときわたしはなおインドネシア共和国をわたしの国家と思うだろうか。思うわけがない。国家がごくあたりまえの正義を保証しない。だから国民は国家を信用しない。(中略)国家が壮大なたかりの機構となっているところでは、民主主義はたちまち利権と利益誘導の政治となってしまうだろう。(中略)いまインドネシアで危機にあるのはまさに国民国家それ自体である。(同書pp.165-167)

国家がたかりの構造と化し、民主主義が利権と利益誘導の政治に堕し、経済状況の緊迫化によってそれが許容できなくなってきているのは、程度の差こそあれ日本も同じ。「アホでマヌケなアメリカ白人」を読む限り、アメリカも同じかもっとひどい。資本主義のグローバル化の負の側面として個人の利益追求至上主義が「公共」の概念を蝕み、「国民国家」それ自体が危機に瀕する状況は、今後ますます強まるのではないか。

03年2月19日 文化史はやっぱり
今日は午後から慶応の経済と早稲田の一文の解答速報会議。今年から世界史を復活した早稲田の一文は、早稲田が事前に示していたサンプル例通り、標準的な問題が中心。テーマ的には早稲田の一文でも、慶応の経済でも、ネットワーク論や主権国家体制などの新傾向からの出題が目立つ。あと、文化史はやっぱり難関校では必出。早稲田の一文ではルネサンス美術で「遠近法」と「マサッチョ」を書かせる問題が出題されていたし、ついでにもらった慶応の文学部の問題では、第一次世界大戦に関する以外の小説を選択肢から選ばせる問題(解答はスペイン内乱をテーマにした『誰がために鐘は鳴る』)で、外れ選択肢にまたしても『チボー家の人々』が入っていた。当ホームページでも、文化史関連はもっと充実させないと。

03年2月18日 今頃になって
中勘助の『銀の匙』(岩波文庫版)を読了。少年時代を純化して描き出し、夏目漱石に絶賛され、今にいたるまで読み継がれてきた名作で、ホントは今頃ようやく読んだとここに書くことが恥ずかしいような小説。でも、受験の日本文学史には出てこない。その事実が、「日本文学」というものが、いかに偽物の権威の上に構築されているかということを黙示しているわけだが、いや、堪能しました。歴史屋としては、日清戦争の頃の思い出という形で、学校の仲間や先生が戦争に興奮し、日本人の大和魂をわけもわからず称揚し、中国人をちゃんちゃん坊主と馬鹿にすることに不愉快を感じるくだりに、興味を引かれた。以下、引用。

「町をあるけば絵双紙屋の店という店には千代紙やあね様づくしなどはは影をかくして至るところ鉄砲玉のはじけたきたならしい絵ばかりかかっている。耳目にふれるところのものなにもかも私を腹立たしくする。ある時またおおぜいがひとつのところにかたまってききかじりのうわさを種にすさまじい戦争談に花を咲かせたときに私は彼らと反対の意見を述べて 結局日本はシナに負けるだろう といった。(中略)仲間の多くは新聞の拾い読みもしていない。万国地図ものぞいてはいない。史記や十八史略の話もきいてはいない。それがためにとうとう私ひとりにいいまくられて不承不承に口をつぐんだ。が、鬱憤はなかなかそれなりにはおさまらず、彼らは次の時間にさっそく先生にいつけて
「先生、□□さんは日本が負けるっていいます」
といった。先生はれいのしたり顔で
「日本人には大和魂がある」
といっていつものとおりシナ人のことをなんのかのと口ぎたなくののしった。それを私は自分がいわれたように腹にすえかねて
「先生、日本人に大和魂があればシナ人にはシナ魂があるでしょう。日本に加藤清正や北条時宗がいればシナにだって関羽や張飛がいるじゃありませんか。それに先生はいつかも謙信が信玄に塩を贈った話をして敵を憐れむのが武士道だなんて教えておきながらなんだってそんなにシナ人の悪口ばかりいうんです」
そんなことをいって平生のむしゃくしゃをひと思いにぶちまけてやったら先生はむずかしい顔をしてたがややあって
「□□さんは大和魂がない」
といった。私はこめかみにぴりぴりとかんしゃく筋のたつのをおぼえたが、その大和魂をとりだしてみせることもできないのでそのまま顔を赤くして黙ってしまった。」(同書pp.127-128)

「ききかじりのうわさを種にすさまじい」話をする付和雷同する人々や、「□□さんは大和魂がない」の論法ですませてしまうさもしい輩は、今も昔もいるということで。

03年2月17日 やっと
テキスト関係の仕事が終了。時間ができたので、ヨーロッパ文化史の残りにとりかかる。で、近代ヨーロッパ美術史をなんとかまとめ。

03年2月16日 結局
日曜日というのに午前中も仕事。「しわよせ」って昔の人はうまい言葉を作ってくれてたもんだ。でも、何とか午前中で原稿があがる。午後からはまちかねていた家族とともに、調布市の仙川駅近くにあるスーパー銭湯へ。ホームページの検索で見つけておいたのだけど、なかなか良かったです。今回は車で行ったけど、駅からも徒歩5分。
が、隣接して最近出来たとおぼしきけっこう大規模なマンションがあって、このマンションの人たち、いいよね。こうゆうところに、お引っ越ししたかったね、いつでもお風呂入れるもんね、と息子たち。マンションに付属して、和風ファミレスの夢庵まであって、そのまま御洒落な商店街に続いていく。仙川でも良かったよね、と妻も。妻子よすまん、甲斐性なしの父では、この豪華マンションはちょっと無理だ。「目の毒」って昔の人は。。。
ここのところ、また疲労性の腰痛が来てたので、マッサージを頼む。お風呂、マッサージ、ストレッチ、我が人生に、不可欠なものに。

03年2月15日 オフはまだか
ここ数日2月7日の会議の結果を受けた修正原稿をやっつけようとしていたのだけど、当初の予想を裏切って、結構な作業量が。いや、見通しが甘いのはいつものことなんだけどね。羽村市から友人一家(除く土曜出勤の父)が遊びに来てくれたので、子供の世話を女性二人にまかせ、土曜日だというのに一人部屋にこもって仕事。おわびに夕食は作りました。ソーセージのポトフと、肉野菜炒めに、ツナと小松菜の炒め物。

03年2月14日 歴史の改竄
2月5日の記録、「妖狐蔵間」は「妖狐蔵馬」の誤りという指摘を受け、訂正しました。「蔵間」ったらお相撲さんの名前になってしまうね。ブッシュ米大統領のスピーチは、余りにも誤りが多いので、後日公式発表される時には大幅な修正が行われ、「歴史の改竄」と揶揄されるそうだけど、ブッシュを笑えんな。

03年2月13日 上を向いて笑おう
羽村市の旧宅付近で、住宅地の大規模造成が始まってしまい、相場が下落。そういうわけで、本日不動産屋さんと相談の上、一気の値下げに踏み切る。当初の見積価格を大幅に下回り、いくらなんでもそこまで下がることはありませんよ、と笑い話で出ていた価格をも下回ってしまった。さて、そういう深刻な会話を交わした後、人はどうするか。馬鹿話に興じるんである。殺人事件があったらしい、と伝えられてきた謎の井戸付きの土地(警察署まで行って調べたけど、どんな事件だか警察でもわからなかった)だとか、元墓地の土地を平気で購入する人の話だとか、新築で購入した家で家族全員が幽霊を目撃して売りに出した話だとか、不動産にまつわるいわくつきの話を、面白おかしく聞かせてもらって大笑い。旧ソヴィエト連邦の抑圧体制下においてロシア人のユーモアは独特の発展をとげ、特にブレジネフ時代にはアネクドートと言われる政治風刺小話が盛んに作られた。この状況が続けば、日本のお笑い文化の大発展も間違いなし。マンガ・アニメ・ゲームに続く輸出文化に育てることも、夢ではないかも。

03年2月12日 さすがにやばし
遊び呆けてるこの間に、二度、三度と宅急便屋さんが校正原稿その他を。

03年2月11日 なんじゃたうん
子供たちをつれて池袋のサンシャインシティへ。アトラクションの類は一切無視し、入園料のみでなんじゃたうんの餃子コーナーへ。祝日ということで人混みがすごかったけど、ある程度の作りおきが出来る餃子という商品の性格が、こういう企画にはピッタリはまっていて、僅かな待ち時間だけで各地の名物餃子を次々にゲット。昼飯餃子のみ。それで満腹。子供たちも、縁日を模した簡単なゲームコーナーで満足してくれたので金もかからず、都心の有名スポットに行った割には満足度の高い一日。

03年2月10日 リラックス
府中駅から徒歩5分の温浴施設、湯の国ジャポンに行ってみる。最寄り駅が分倍河原の我が家からも徒歩15分。ビル内の施設で、郊外のスーパー銭湯に通い慣れた感覚からは、ややこじんまり、という印象。でも、ジェットバスもうたせ湯も露天風呂もサウナもマッサージルームも、必要なものは全部そろってる。なにより、郊外型スーパー銭湯と違って仮眠室が充実。間接照明のみのうす暗い空間にはアロマテラピーの香りが満ち、壁面の液晶TVには、音声をカットした草原で草をはむ動物たちの画像。聴こえるか聴こえないかぎりぎりの音量で流される環境音楽。あまりといえば、あまりだけど、確かに効果抜群。リクライニングシートで横になると、たちまちうたたねの状態に。唯一の問題は、平日の昼間にすっかりリラックスして軽い寝息を立てている両隣が、かたや夜の商売風、かたや芸術家風の、性格は違うけど見るも怪しげ系であったこと。客観的には、平日の昼間から仮眠している見るも怪しげが三体なんだろうけどね。

03年2月9日 遊びました
で一日。広くて、子供たちが喜ぶ遊具があって、池でボート遊びも出来るし、今の時期はアイススケートもやってる。牧場があって、入り口の広場ではチョークで自由に落書きも出来る。入園料も一般の遊園地に比べると格段に安い。久しぶりの大ヒット。

03年2月8日 藤沢周平
藤沢周平、『よろず屋平四郎活人剣』を読み返す。学生時代から、年に一度は読み返している作品。やっぱ藤沢周平はいい。

03年2月7日 やっと
午前中、会議。やはりというか何というか、修正箇所が発生。しかし、今年度の主要な仕事は、とにかくこれで一段落。

03年2月6日 これでもずいぶん
現在、正確には2月7日の午前4時。会議のための原稿、なんとかあがった。進歩である。10時から会議だけど、それまで3時間ほどは眠れそうだ。9時から10時までに息子を寝かしつけるために添い寝し、1時間ほど仮眠をとったので合計4時間は睡眠時間をとれることになる。ついに徹夜をしなくてすんだ。そう考えると、微かなしあわせ感につつまれたりするんだから、人間というのは相対的な生き物である。プロタゴラス「人間は万物の尺度」。

03年2月5日 『寄生獣』の影響は
このページを見た人から『寄生獣』について何が凄いのか、という質問があったのだけど、「人間に寄生し、自在に変形する生物」というアイデアと、それをビジュアル化したこと、かな。誰もそれまで見たことがなかったものを提示したオリジナリティは、とにかく圧倒的だった。『寄生獣』がなければ、「鉱物生物を左手に移植された少年」を主人公とした『ARMS』はありえなかったのは確か。逆に類まれな完成度と画力を誇る『ARMS』が、ついにメジャーな漫画賞を受賞できなかったのは、その出発点においてあまりにも『寄生獣』に負っているものが大きすぎたからだろう。同業のマンガ家に与えた影響は広範で、『ARMS』ほどでなくとも『寄生獣』の場面設定やカットからの引用は、いろいろなところで目にする。アニメにもなった冨樫義博の『遊幽白書』(ケーブルTVのアニメチャンネルの影響で、うちの息子たちが現在はまってますが)における副主人公の「妖狐蔵馬」と母親との間のエピソードは、あからさまなまでに、『寄生獣』の主人公と母親のそれだし、現在TV東京の土曜日深夜枠という、少年誌連載マンガ(少年サンデー)とは思えないマニアックな時間枠で放映中の西森博之天使な小生意気』第2巻で、主要キャラクターの一人、「日本一武士な高校生、小林」の登場シーンにおける不良撃退の場面(pp.158-160)は、『寄生獣』第4巻(講談社、1992)のpp.19-22からの引用。いろいろな意味で日本マンガの表現の可能性を広げ、日本マンガの共有財産となった作品だと思う。

03年2月4日 講習了
冬期講習に続いて、ランダムに入っていた直前講習も、本日の駒場校「一橋大学直前テスト」で終了。でも、例年と違って解放感が薄いのは、2月7日に最後のテキスト関係会議があって、それまでにまとめなければならない原稿が残っているため。2003年になって3度目の徹夜、という事態だけは避けたい。

03年2月3日 完全版
世の中には映画のディレクターズカットだとか、小説やマンガの完全版だとか豪華版だとか、一粒で二度、三度もうけようという商売があって、私自身はそうしたものについては全く心動かされないかというと嘘になるけど、そこまで「濃く」はないので購入にまではいたらない、というタイプだと思っていた。今日まで。買ってしまいました岩明均寄生獣完全版』の1巻と2巻。既存の全10巻を揃えて持っているというのに。

03年2月2日 氷上に立つ
友人一家と西武遊園地へ。そこで20年ぶりくらいでジェットコースターに乗り、30年ぶりくらいでアイススケートをするという思わぬ貴重な体験。アイススケートは、最初のうち、ほぼリンクに立っているだけ。小学校に上がったばかりの頃、田舎の市にもリンクがあって、何度か父親に連れていってもらってけっこう滑れていたような記憶があるのは、やっぱりあれ。長い歳月の間に自分に都合がいいように記憶は変容してしまうというやつですか。ようやくそろそろと動けるようになった私の横を、今日初めてアイススケートをやる長男が、「お父さん、赤ちゃんみたい。よちよち歩きだね」と言いながら抜いていく。長男は一週間前からインラインスケートを始めていて、すぐに体重移動のコツをつかんでしまったのだ。
父の威厳、まるつぶれ。

03年2月1日 アホでマヌケなのは
『アホでマヌケなアメリカ白人』を読んで思ったのは、アメリカと日本の中産階級の生活様式や置かれている状況が、普通言われている以上に似通っているのでは、ということ。「彼らはルールを守り、心と魂を会社に捧げ、仕事と結婚した。研修には欠かさず出席し、夜遅くのアイデア会議もサボらず、社長の命じるチャリティイベントにも全部出席してきた。そしてある日、突然」(同書p.93)、これは不況を口実に大量レイオフに見舞われているアメリカのホワイトカラーや専門職の人々について述べたくだりだけど、これってリストラ地獄に見舞われている日本のサラリーマンについての表現にもぴったり当てはまるんじゃないだろうか。考えてみれば当たり前で、工業化社会と資本主義経済のグローバル化が進めば進むほど、その中に組み込まれた人々の生活様式や価値観は、国家や文化や民族といった枠組みを超えて類似せざるをえない。『共産党宣言』でマルクスとエンゲルスが結びの言葉として置いた「万国の労働者よ、団結せよ」という言葉が、マルクス主義の「民族を超えて共通する階級」の概念が、再び姿を変え、強化されて立ち現れてきたようで、ちょっと眩暈が。