A次の文章は,ロシア帝国のトルキスタン総督が,イスラムの脅威を警告するために1899年にニコライ2世に提出した上奏文の一部です。これを読んで下記の問に答えなさい。

交通手段の改良と国際商業の発展とは,これまで分散していたムスリム諸民族をしだいに接近させており,彼らの関係を強化して相互扶助の期待を抱かせることにより,汎イスラーム主義の大義に大いに貢献している。
(小松久夫「1905年前後の世界」『講座世界史5強者の論理』東京大学出版会,1995)

問1ここであげられている交通手段の改良と,ムスリム諸民族の接近について説明しなさい。(60字以内)

解答例
汽船の運航と鉄道の整備が進み,1869年のスエズ運河建設によってメッカ巡礼が増大し,ムスリムの交流が活発化した。



問2汎イスラム主義を唱えた代表的人物とその思想,及び汎イスラム主義が影響を与えた民族運動について述べなさい。(140字以内)

解答例
アフガーニーは反帝国主義のためにイスラムの連帯を主張し,同時に立憲制導入などによるイスラム世界の近代化を唱えた。その思想はエジプトで立憲制の確立を目指したアラービ=パシャの運動や,イランでイギリス商人へのタバコ独占販売権授与に反対したタバコ=ボイコット運動に影響した。



B次の文章は,ある民族運動の宣言書の一部です。これを読んで下記の問に答えなさい。

われらはここにわが朝鮮国が独立国であること,および朝鮮人が自由民であることを宣言する。これをもって世界万邦に告げ,人類平等の大義を克明し,これをもって子孫万代におしえ,民族自存の正当なる権利を永遠に有せしむるものである。(中略)
当初から民族的要求としてだされたものではない両国併合の結果が,畢竟,姑息的威圧と差別的不平等と統計数字上の虚飾のもとで,利害相反する両民族間に永遠に和合することのできない怨恨の溝を,ますます深くさせている今日までの実績をみよ。憤りを含み怨みを抱いている二千万の民を,威力をもって拘束することは,ただに東洋永遠の平和を保障するゆえんでないだけでなく,これによって,東洋安危の主軸である4億の中国人民の日本に対する危懼と猜疑とをますます濃厚にさせ,その結果として東洋全局の共倒れ,同時に滅亡の悲運を招くであろうことは明らかである。

問 この民族運動の背景にあった日本の対朝鮮政策と,民族運動について説明しなさい。(200字以内)


解答例
韓国を併合した日本は,韓国統監府を朝鮮総督府に改組し,憲兵警察によって治安を維持する武断政治を行い,民衆の反日武装闘争である義兵闘争を鎮圧した。言論・出版・集会・結社の自由は奪われ,民族教育は抑圧された。全土で土地調査事業が行われ,所有権が明確でない土地は没収されて農民の困窮化が進んだ。1919年にウィルソンの14カ条に刺激され「独立万歳」を叫ぶ三・一運動が起こったが,日本はこれを武力で弾圧した。