出題年:1997年
出題校:東京大学
問題文
20世紀の民族運動の展開を考えるさい,第一次世界大戦の前後の期待は大きな意味をもっている。この時期にはユーラシアの東西で旧来の帝国が崩壊し,その結果一部の地域では独立国家も生まれたが,未解決の言葉も多く残った。それは,現代世界の民族と国家をめぐる紛争の原点ともなった。こうした旧来の帝国の解体の過程とその後の状況について,とくにそれぞれの帝国の解体過程の相違に留意しながら,450字(15行)以内で述べよ。なお,下に示した語句を一度は用い,使用した箇所には必ず下線を付せ。

  民族自決  三民主義  少数民族  シオニズム 
  アラブ  モンゴル  オーストリア・ハンガリー  バルト三国

解答例
大戦前には三民主義を掲げた辛亥革命で清帝国が解体し,中華民国が成立した。その混乱に乗じて外モンゴル地域が独立し,人民共和国となったが,中央アジアやチベットの民族問題は残った。大戦中にはロシア帝国がロシア革命によって解体し,ソヴィエト政権が成立した。講和条約でドイツに割譲した地域では,大戦後フィンランド,バルト三国,ポーランドが独立したが,その他のウクライナや中央アジアの民族運動は抑圧された。オーストリア・ハンガリー帝国は第一次世界大戦の敗北によって民族自決原則が適応され解体した。その結果成立したハンガリー,チェコスロヴァキア,ユーゴスラヴィアはいずれも少数民族問題を抱え,その後の紛争の要因となった。オスマン帝国は敗北によって半植民地化されたが,ギリシア・トルコ戦争で主権の回復に成功し,革命によってトルコ共和国が成立した。旧領土のアラブ人地域は英仏の委任統治領とされ,パレスチナでは大戦中のイギリスの二重外交の結果,シオニズム運動で移民し増大したユダヤ人とアラブ人の対立が激化した。