白楽天(772-846)
中唐を代表する詩人。玄宗皇帝と楊貴妃をモデルとした『長恨歌』や日々の感傷を綴った『琵琶行』を始め、唐代最多の3000余首の詩作を行い、晩年には自ら『白氏文集』を編んだ。平安期の日本で最も愛された中国詩人であり、それは『枕草子』の一エピソードに、清少納言が雪の日皇后に「少納言よ、香炉峰の雪はいかならん」と問われ、黙って御格子をあけ、御簾を高くかかげて見せてその才気を感嘆されたことが、とりあげられていることからもうかがえる。皇后の問いは『白氏文集』の詩の一節「遺愛寺の鐘は枕をそばだてて聞き、香炉峰の雪は簾をかかげて看る」を踏まえたものであったのである。さてその詩人の生涯といえば貧しい家に生まれながら、29歳で一族ではじめて進士に合格し、地方官を振り出しに勤勉な官吏生活を続けて出世を重ね、途中一時政治の乱れを糾弾して左遷されるというようなことがあったものの、最後は行部尚書(司法長官)の地位まで登り、引退後は洛陽郊外で酒と詩を供に、悠々自適の生活を送るという、詩人には珍しい順風満帆の一生であった。