フランスでは大革命以来「国民」の観念を言語や人種といった客観的・血統主義的要素に求めず,フランスという「国家が掲げる基本原理を共有しようという意志」に,つまり意志的・選択的要素に求める考え方が基本であった。現在でもフランス第五共和政憲法第二条第一項は,

フランスは不可分の非宗教的,民主的かつ社会的な共和国である。フランスは,出身,人種また
は宗教による区別なしに,すべての市民の法のもとの平等を保障する。フランスは全ての信条を
尊重する

と述べる。
 しかし,普仏戦争に敗北したことによって,対ドイツ報復ナショナリズがフランスに生じ,これはフランスのナショナリズムに民族主義的な要素を混入させ,排外主義やドレフュス事件に見られる反ユダヤ主義を生み出してしまった。また,フランス国民資格の原理に見られる啓蒙主義的普遍主義は,「文明化の使命」という植民地主義正当化の論理として20世紀半ばまで生き延びることになった。

 「国民国家とナショナリズム」(谷川稔1999,山川出版社世界史リブレット)を参考に作成しました