出題年:2006年
出題校:一橋大学
問題文

オットーの皇帝戴冠の歴史的意義 フランク王オットー1世(在位936〜973年)の皇帝戴冠は,中世ヨーロッパ世界に一つの転機をもたらしたといわれる。彼は,10世紀半ばのイタリア情勢に対応してアルプスを越えて南下し,962年2月にローマで皇帝としての冠を受けた。このとき地中海の周辺には,東方にビザンツ帝国が,また地中海の南岸とイベリア半島にはイスラム勢力があった。オットー1世の皇帝戴冠の歴史的意義を,9〜10世紀の地中海世界の政治動向との関係に言及しながら論じなさい。(400字以内)


解答例

9世紀にはフランク王国が分裂し,ノルマン人とマジャール人の侵入もあって西欧世界は混乱状態に陥った。皇帝位も不在となり,教会の世俗化もあって教皇の権威も低下した。特にイタリアは875年のカロリング朝断絶後はイタリア王が空位となり,政治的不安定が続いた。一方地中海域ではイスラーム勢力が強大化した。9世紀にはシチリア島を占領し,10世紀にはカリフを称したファーティマ朝が南岸を制圧し,同じくカリフを称したイベリア半島の後ウマイヤ朝とともに西欧世界を圧迫した。さらにビザンツ帝国が勢力を回復し,バルカン半島のスラヴ人に布教を進めてギリシア正教圏を拡大した。このような情況でマジャール人の侵入を撃退し,北イタリアも支配したオットー1世が皇帝の冠を受けたことは,イスラーム圏とギリシア正教圏に包囲されて危機に瀕したカトリック圏の安定を回復し,皇帝と教皇を普遍的権威とする西欧世界を再確立するものであった。